2020年2月14日

海外研修報告 <ハーバード大学 Brigham and Women’s Hospital (BWH) Pain Management Centerにおける慢性疼痛治療見学>

 期 間  令和2年2月10日~14日(5日間)
 参加者  山口大学 麻酔科医師:森亜希 (整形外科医師:鈴木秀典 自己負担により参加)

【施設紹介・研修内容】

 我々は、ハーバード大学関連病院の一つであるBrigham and Women’s Hospital (BWH) を訪問した。BWHは多数の病院を持ち、今回は特にPain Management Centerと関連する病院である①Health Care Center, Chestnut Hill、 ②Brigham and Women’s Hospital Main Campus、 ③Brigham and Women's Faulkner Hospitalの3病院を見学した。

①Health Care Center, Chestnut Hill

 多くの患者に強オピオイドが使用されており、また侵襲的な治療を積極的に行っていた。Primary Doctorからの新規紹介患者は、血液検査や画像診断を済ませており、問診、診察などすべてを一人の医師が行う日本と比べ、役割分担されていることが印象的であった。また、Primary Doctorから心理部門に紹介された新規患者の診察に立ち会ったが、日本では、臨床心理士が初診で他の病院からの紹介患者を診察することはなく、これがアメリカの医療体制の特徴だと感じた。日本では疼痛治療の現場に臨床心理士が参加する施設はほとんどなく、特に外来では医師一人で心理面や理学療法のアドバイスまで行う。日本の保険適用での臨床心理士による診療の点数化が望まれる。リハビリテーションの理学療法士からも話を聴いたが、具体的なプログラムはなく、個々に適したプランを作成し、理学療法を行っているとのことであった。

②Brigham and Women’s Hospital Main Campus

 793床を有するハーバード大学医学部関連の非営利教育病院であり、多くのResidentとFellowがいる。また、我々が訪れた手術室だけでも48室あった。この手術室でDr. Rossによる3件の手術を見学した。Spinal Code Stimulation (SCS:脊髄刺激装置) 植え込み術2件とIntrathecal Morphine(モルヒネ髄腔内投与療法)のPump Exchange 1件である。前者は鎮静下で行い、刺激時には覚醒で確認していた。また、Pump Exchangeは全身麻酔下で行い、Pumpの電池は7年ごとに交換する。いずれも日帰り手術で、費用面からも入院は避けられていた。

③Brigham and Women’s Faulkner Hospital

 Dr. Yongの外来、手術、リハビリを見学した。この病院は、Spinal Center(脊椎脊髄センター)でもあり、その特徴が表れた病院である。Dr. Andrewは、内視鏡下手術を専門にしており、それを和歌山県立医科大学で学んだと聞き、日本で習得した技術がアメリカで広く行われていると知った。Spinal Centerと呼ばれるが、三叉神経痛の新患も受入れ、痛み全般の診療を行っている。また、退院後のリハビリの必要性の判断に重きを置いていた。慢性疼痛患者にとってリハビリは重要だが、金銭的な問題で中断せざるを得ない患者もおり、アメリカの保険制度には問題もある。この病院では、日本では聞いたことがない処置の2例を見学した。一つは、下肢のComplex Regional Pain Syndrome (CRPS:複合性局所疼痛症候群)に対するProclaimTM DRG Neurostimulatorの植え込み術である。これは、Doral root ganglion(DRG:脊髄後根神経節)にリードを留置し、刺激装置を植え込む手術で、鎮静下で行われる。二つ目は、腰部脊柱管狭窄症に対して、Vertiflex 社製のSuperion®というデバイス留置を全身麻酔下に留置する手術である。これは、前屈位で間欠跛行や下肢の痺れ・痛みが軽減する症例に対して、Superion® を留置すると後方から脊柱管が拡大するという理論で行われていた。まだアメリカ国内でしか実施されていない処置である。

【総括・感想】

 日本では慢性疼痛患者に対する侵襲的治療は限られているが、アメリカでは多数実施されていた。強オピオイドも多くの患者に使用されていた。
 日本では、慢性疼痛治療における臨床心理士による診療は保険点数がつかず、臨床心理士を慢性疼痛の現場で雇うことは難しいが、今回の研修で臨床心理士の役割は大きいことがわかり、今後日本でも慢性疼痛治療での保険点数化を期待する。
 職種では、日本にはないMid-level providerと呼ばれるPhysician Assistantがいて、診療がスムーズに行われていたことが印象的だった。
 アメリカでは、公的医療保険制度は受給資格者のみに適用され、その他の人は民間保険への加入が必要で、受けられる医療が制限されるため、入院での集学的治療は行えず、外来での治療になるケースが多い。現在の日本で慢性疼痛を入院して行えることは患者にとっては恵まれた環境であると言える。
 すべての病院に共通する特徴は、早朝から出勤し、手術は朝7時半から、外来は朝8時半頃に開始し、夕方5時には帰宅することを前提に診療が行われていることである。これはスタッフのQOLもさることながら、いつも病院に問い合わせ、受診ができるわけではないことの患者教育にもなっていると感じた。
 また、病院外でも救急車の出動が少ない印象だった。これも、費用の問題から、気軽に救急車を「呼べない、呼ばない」ことの現われだと感じた。日本が見習うべき点であるとも言える。
 わが国で慢性疼痛診療が重要であることは、徐々に浸透してきている。しかし、多職種の人達が慢性疼痛診療の教育プログラムを受け始めた段階であり、今後はこの教育を受けた医療者が新たな人材育成を行い、わが国の慢性疼痛診療を発展させていく必要があると思われる。