- 活動報告 -

2019年度

▶ 2019年11月4~7日 International Spinal Cord Society (ISCOS) 2019に参加しました

参加者  山口大学大学院医学系研究科整形外科学: 鈴木秀典

 本年度も昨年に引き続き、11月4 ~7日にかけてISCOSに参加いたしました。本年度はニース(フランス)で学会が開催されました。
 脊髄障害に伴う疼痛の問題に関しては、workshop: 2演題、口演:10演題、ポスター発表:6演題で取り上げられていました。
 Workshopのセッションでは、感覚障害の高位などを含めた、国際的な障害分類についての報告と提案がなされていました。また新たな治療として、Virtual Realityを用いたリハビリテーションによる、運動麻痺の改善と疼痛の軽減の可能性について報告されていました。口演では、イギリス、イタリア、スイス、デンマーク、オーストラリア、日本を中心に各国の疫学調査や患者データが示されていました。本邦からの報告では、慢性期脊髄損傷患者の神経障害性疼痛の割合は、これまでの報告よりは少なく8%程度でありましたが、もっとも日常生活で感じるADL障害は「疼痛」であったと報告されていました。また車いす移乗動作や操作に伴う「肩痛」の報告、我が国では承認されていませんが、デンマークで現在進んでいるCannabisによる脊髄障害や多発性硬化症に伴う難治性疼痛治療に関する臨床治験などが報告されていました。また、私たちも現在行っております、functional MRIを用いた研究では、脳内での機能障害が難治性疼痛に関係しているとの報告がなされていました。
 各種薬物治療の報告はなされておりましたが、根本的な脊髄障害の治療、難治性疼痛の将来の治療をリードしているのは、やはり細胞移植療法などの再生医療の領域でした。この領域に関しては、日本が世界をリードしており、国際学会の場でもリーダー的な立ち位置であったことは誇らしいことでありました。私たち山口大学でも脊髄損傷などを中心に疼痛と脳機能の関係を同定する臨床研究、幹細胞を用いた臨床治験などを現在進行形ですすめております。こうした取り組みが、10年先の医療現場での一般的治療となることを確信するとともに、世界をリードできる次世代の基礎研究をさらにすすめていく必要性を痛感いたしました。以上、国際学会での研修について、ご報告をさせていただきました。

▶ 2020年1月14日 外部評価を受審しました

 令和元年12月に、今回で4度目となる認定NPO法人いたみ医学研究情報センターによる、令和元年度の取組みに関する外部評価を受審しました。
 評価は「慢性痛教育センターの設置後の運用について」「慢性痛教育に携わる分野の医療リーダーの養成」「慢性痛教育資材の開発後の利用促進」の3つの観点項目について実施され、それぞれ5段階評価の4.75点、4.0点、4.5点との評価を得ました。(4はほぼ計画とおりに進んでいる、5は計画案に沿って事業は達成できているという評価内容です。)
 特に「慢性痛教育センターの設置後の運用について」の項目では、山口大学の市民公開講座や滋賀医科大学の県との連携など、医療従事者以外にも広く慢性疼痛に関する知識を広める活動を行っており事業目標を達成することができているとの高評価を受けました。
 本事業では、このたびの評価の結果を本HPにて広く社会に公表するとともに、外部有識者の声を基に、今後の事業実施に向けた改善に取組む所存です。

▶ 2020年2月10日~14日 海外研修報告 <ハーバード大学Brigham and Women’s Hospital (BWH) Pain Management Centerにおける慢性疼痛治療見学>

・期 間  令和2年2月10日~14日(5日間)
・参加者  山口大学 麻酔科医師:森亜希 (整形外科医師:鈴木秀典 自己負担により参加)

【 施設紹介・研修内容 】
 我々は、ハーバード大学関連病院の一つであるBrigham and Women’s Hospital (BWH) を訪問した。BWHは多数の病院を持ち、今回は特にPain Management Centerと関連する病院である①Health Care Center, Chestnut Hill、 ②Brigham and Women’s Hospital Main Campus、 ③Brigham and Women's Faulkner Hospitalの3病院を見学した。

①Health Care Center, Chestnut Hill
 多くの患者に強オピオイドが使用されており、また侵襲的な治療を積極的に行っていた。Primary Doctorからの新規紹介患者は、血液検査や画像診断を済ませており、問診、診察などすべてを一人の医師が行う日本と比べ、役割分担されていることが印象的であった。また、Primary Doctorから心理部門に紹介された新規患者の診察に立ち会ったが、日本では、臨床心理士が初診で他の病院からの紹介患者を診察することはなく、これがアメリカの医療体制の特徴だと感じた。日本では疼痛治療の現場に臨床心理士が参加する施設はほとんどなく、特に外来では医師一人で心理面や理学療法のアドバイスまで行う。日本の保険適用での臨床心理士による診療の点数化が望まれる。リハビリテーションの理学療法士からも話を聴いたが、具体的なプログラムはなく、個々に適したプランを作成し、理学療法を行っているとのことであった。

②Brigham and Women’s Hospital Main Campusp
 793床を有するハーバード大学医学部関連の非営利教育病院であり、多くのResidentとFellowがいる。また、我々が訪れた手術室だけでも48室あった。この手術室でDr. Rossによる3件の手術を見学した。Spinal Code Stimulation (SCS:脊髄刺激装置) 植え込み術2件とIntrathecal Morphine(モルヒネ髄腔内投与療法)のPump Exchange 1件である。前者は鎮静下で行い、刺激時には覚醒で確認していた。また、Pump Exchangeは全身麻酔下で行い、Pumpの電池は7年ごとに交換する。いずれも日帰り手術で、費用面からも入院は避けられていた。

③Brigham and Women’s Faulkner Hospitalp
 Dr. Yongの外来、手術、リハビリを見学した。この病院は、Spinal Center(脊椎脊髄センター)でもあり、その特徴が表れた病院である。Dr. Andrewは、内視鏡下手術を専門にしており、それを和歌山県立医科大学で学んだと聞き、日本で習得した技術がアメリカで広く行われていると知った。Spinal Centerと呼ばれるが、三叉神経痛の新患も受入れ、痛み全般の診療を行っている。また、退院後のリハビリの必要性の判断に重きを置いていた。慢性疼痛患者にとってリハビリは重要だが、金銭的な問題で中断せざるを得ない患者もおり、アメリカの保険制度には問題もある。この病院では、日本では聞いたことがない処置の2例を見学した。一つは、下肢のComplex Regional Pain Syndrome (CRPS:複合性局所疼痛症候群)に対するProclaimTM DRG Neurostimulatorの植え込み術である。これは、Doral root ganglion(DRG:脊髄後根神経節)にリードを留置し、刺激装置を植え込む手術で、鎮静下で行われる。二つ目は、腰部脊柱管狭窄症に対して、Vertiflex 社製のSuperion®というデバイス留置を全身麻酔下に留置する手術である。これは、前屈位で間欠跛行や下肢の痺れ・痛みが軽減する症例に対して、Superion® を留置すると後方から脊柱管が拡大するという理論で行われていた。まだアメリカ国内でしか実施されていない処置である。

【 総括・感想 】
 日本では慢性疼痛患者に対する侵襲的治療は限られているが、アメリカでは多数実施されていた。強オピオイドも多くの患者に使用されていた。
 日本では、慢性疼痛治療における臨床心理士による診療は保険点数がつかず、臨床心理士を慢性疼痛の現場で雇うことは難しいが、今回の研修で臨床心理士の役割は大きいことがわかり、今後日本でも慢性疼痛治療での保険点数化を期待する。
 職種では、日本にはないMid-level providerと呼ばれるPhysician Assistantがいて、診療がスムーズに行われていたことが印象的だった。
 アメリカでは、公的医療保険制度は受給資格者のみに適用され、その他の人は民間保険への加入が必要で、受けられる医療が制限されるため、入院での集学的治療は行えず、外来での治療になるケースが多い。現在の日本で慢性疼痛を入院して行えることは患者にとっては恵まれた環境であると言える。
 すべての病院に共通する特徴は、早朝から出勤し、手術は朝7時半から、外来は朝8時半頃に開始し、夕方5時には帰宅することを前提に診療が行われていることである。これはスタッフのQOLもさることながら、いつも病院に問い合わせ、受診ができるわけではないことの患者教育にもなっていると感じた。
 また、病院外でも救急車の出動が少ない印象だった。これも、費用の問題から、気軽に救急車を「呼べない、呼ばない」ことの現われだと感じた。日本が見習うべき点であるとも言える。
 わが国で慢性疼痛診療が重要であることは、徐々に浸透してきている。しかし、多職種の人達が慢性疼痛診療の教育プログラムを受け始めた段階であり、今後はこの教育を受けた医療者が新たな人材育成を行い、わが国の慢性疼痛診療を発展させていく必要があると思われる。

▶ 2020年3月23日 リーダー研修会を開催しました

 3月23日(月)、慢性痛医療のリーダー養成を目的とした海外研修の参加者等による報告会を web上で開催し、19名が参加した。
 ボストン大学並びにシドニー大学で海外研修を行った、山口大学の森先生と田原先生より、それぞれ以下のとおり報告があった。

【ハーバード大学 Brigham and Women’s Hospital (BWH) Pain Management Centerにおける慢性疼痛治療見学 -山口大学麻酔科 森亜希先生-】
● Health Care Center, Chestnut Hill
多くの患者に強オピオイドが使用されており、また侵襲的な治療を積極的に行っていた。新規患者が Primary Doctorから直接心理部門に紹介されたケースに立ち会ったが、日本では臨床心理士が初診で他の病院からの紹介患者を診察することはなく、アメリカの医療体制の特徴だと感じた。

● Brigham and Women’s Hospital Main Campus
手術室で Dr. Rossによる3件の手術を見学した。Spinal Code Stimulation(SCS:脊髄刺激装置)植え込み術 2件と Intrathecal Morphine(モルヒネ髄腔内投与療法)の Pump Exchange 1件である。

● Brigham and Women’s Faulkner Hospital
Dr. Yongの外来、手術、リハビリを見学した。この病院は、Spinal Centerと呼ばれるが、三叉神経痛の新患も受入れ、痛み全般の診療を行っている。また、退院後のリハビリの必要性の判断に重きを置いていた。この病院では、今後日本に入ってくるであろう処置 2例を見学した。一つは、下肢の Complex Regional Pain Syndrome(CRPS:複合性局所疼痛症候群)に対する ProclaimTM DRG Neurostimulatorの植え込み術である。二つ目は、腰部脊柱管狭窄症に対して、Vertiflex社製のSuperion®というデバイス留置を全身麻酔下に留置する手術である。

総括・感想
● 慢性疼痛患者に強オピオイドを使用している。
● 侵襲的治療が多く行われている。
● 臨床心理士が慢性疼痛治療に参加している。
● アメリカの医療保険制度の下では、受けられる医療サービスが制限される。
● 受診する患者の訴え、疾患は日本と同じである。

【シドニー大学Royal North Shore Hospital(RNSH)Pain Management Center(Professor Michael K Nicholas) における学際的な痛み治療の視察 -山口大学理学療法士 田原周先生-】
● ADAPT Program(集団認知行動療法プログラム)の紹介
1グループ 6~7人、3週間 120時間のプログラムで、理学療法士、臨床心理士、看護師中心に行われている。かかりつけ医からの紹介を受けた患者が直接プログラムに参加したり(プログラムの適応外と判断される場合もある)、理学療法士や臨床心理士の介入を経て、プログラムに参加する場合もある。
1週目は、目標設定、運動量設定、痛み教育、2週目は、薬の減量、痛み教育、運動療法、外出訓練、3週目は、痛み教育、運動療法、外出訓練といった内容になっている。運動療法はセルフエクササイズが中心。また、復職に向けた訓練も行われている。突発痛が起こった際の対策や外出時に調子が悪くなった際の対策なども個別に考えられている。プログラムのためのシステムが確立されていること、慢性疼痛患者にかかわるスタッフの充実、また、スタッフ同士の連携が徹底していることが印象的であった。

 報告を受け、会議参加者による意見交換が行われ、プライマリケアを丁寧に行うことで患者の症状に合った適切な医療を効率よく提供できること、看護師教育の重要性などが話し合われた。海外研修を通じて見識が広がり、自分たちの置かれた環境で、何ができていて何ができていないのかを確認することができた。今後の日本の診療システムに生かすべき点を確認する有意義な報告会となった。